看護師の夜勤見直しが進んでいる?



病床のある病院では、看護師の夜勤が欠かせません。入院患者さん達はそれぞれに違った症状や問題を抱えており、看護師が24時間見守って、異変の際や患者さんが痛みを訴えるときには、すぐにケアや処置を施す必要があります。

そこで、病院の方針によって日勤と夜勤の2交代制か、日勤・準夜勤・深夜勤の3交代制を選択し、配属看護師でシフトを組んで勤務に当たります。


ただし、現在の日本の病院においては、この夜勤体制が看護師のワークライフバランスを崩してしまっていることが指摘されています。これによりいくつかの問題も引き起こされ、夜勤体制の見直しを求める声が高くなっています。

ここでは看護師夜勤の実態と、引き起こされる社会問題、夜勤見直しの具体策について、その概要をまとめます。


夜勤の実態とは


看護師の夜勤の不規則性

働き盛りのサラリーマンなど、急な仕事のために徹夜になってしまうことがありますよね。「看護師が夜勤をこなすのも同じようなものだろう」と考えるかもしれませんが、それは違います。

サラリーマンは一度の徹夜の後、再び日勤~夜の休息を繰り返して、じきに生活リズムを取り戻すことが可能ですが、看護師は常に夜勤と日勤、もしくは準夜勤、深夜勤の入り混じった不規則な勤務時間を繰り返し、生活リズムを整えることがより難しいのです。


デスクワークと違って病棟内を歩きながらそれぞれの患者のケアをし、常に患者の生死という重大な場面に直面していること、しかも一緒にシフトに入るスタッフがその時々で違うという、様々な不規則性を抱えています。

そのような不規則性を抱えた勤務内容とはどのようなものなのか、ある看護師の体験を例に紹介します。彼女は希望していた職業・看護師になって、有名民間病院に就職することができました。

内科と外科が混在する病棟でまずは日勤のみから始め、少し慣れてきた半年後から、日勤(8:30~17:30)、準夜勤(16:30~1:00)、深夜勤(0:00~8:30)の3交代制のシフトに入ることになったのです。

民間病院に勤務する看護師の深夜勤の1日の流れ



・看護師たった2人で40人の患者を看る
 →担当患者について、点滴の種類・時間、既往歴や薬の種類など、全て覚えておかねばならない
 →救急搬送の入院があれば1人はその受け入れに回るため、夜勤を看護師1人でこなさねばならない

・患者の転倒予防のためベッドの足元にセンサー付きマットレスが敷かれ、体重がかかるたびに大きなブザーが鳴る
 →あちこちで転倒予防ブザーが鳴り、駆けつける合間にオムツ交換、点滴チェックなどの通常のケアをしなければらない
 →ナースコールが鳴っても駆けつけることができず待たせてしまう
 →眠れない患者に足浴やマッサージをしてあげたくても時間がなく、医師に睡眠薬を処方してもらうしかない

・夜勤中の運動量は、万歩計で2万歩にも
・仮眠はほとんどとれない

・夜勤後もナースコールが鳴り続け、申し送りが進まない
・看護記録や書類の整理など、昼頃まで残業が続く
(ほとんどがサービス残業)

3交代制での勤務状況

・夜勤は月に10回、多いときは13回(看護師確保法では月8回までとなっている)
・寮住まいのため人手が足りなくなると休日でも呼び出し
・勉強会、委員会などが休日に開催され、休めない
・妊婦も夜勤を免除されず、若手が次々と辞めていく
・日勤→深夜勤のシフトでは、日勤始業の1時間前に出勤して準備し、17:30の終業後も21:00頃まで残業。その3時間後の0:00には深夜勤開始のため、ほとんど休めない
・このような日勤→深夜勤、準夜勤→日勤といった厳しいシフトが度々組まれる


その後、病院の方針により日勤と夜勤(16:30~翌8:30)の2交代制に変わったものの、やはりろくな休憩も取れないまま16時間の勤務後もサービス残業をし、まるで24時間労働のような状況は変わりませんでした。

すれ違いで恋人とも別れてしまったこの看護師は、「このままでは過労死してしまう」と退職を決意したといいます。


過酷な夜勤労働が引き起こす問題とは


生活リズムに逆らった働き方

看護師に夜勤があることはやむを得ませんが、問題となるのはその順序、回数、休息の確保と残業時間です。朝になったら目覚め夜になれば眠るという生活リズムは、誰かが理由もなく始めたものではなく、人の体が持つ自然なリズムに合わせたものです。看護師は、そのなかに夜勤のリズムを組み込まなければなりません。

この時大切なのは、シフトのずらし方です。日勤→準夜勤→深夜勤と、段々と始業時間が遅くなる「正循環」のずれ方であれば、体がよりリズムに順応し休息しやすくなります。


逆に先の体験談であったような、日勤→深夜勤は「逆循環」となり、夕方に勤務を終えて深夜勤開始まで眠ろうと思っても、うまく眠ることができず、結局疲労を引きずったまま勤務に就くこととなるのです。

逆循環のシフトは、正循環よりもより少ないスタッフ数で組むことが可能です。看護師不足をこのようにシフト組みで補っているのが病院の現状であり、さらに忙しい業務のなか休憩時間は確保されず、残業によって休日が削られ、看護師の体力・精神力が奪われていきます。

離職の大きな原因となっている

2010年時点の実働看護師数95万人に対し、離職者は10万人と全体の10%以上にも上ります。せっかく国家資格を取得したにもかかわらず、10人に1人が離職してしまう大きな原因が、夜勤の厳しさです。

先述の体験談のように、夜勤による負担、疲労の大きさに離職を選ぶ方もいれば、出産・子育てと夜勤勤務の両立が難しくなるケースも多く見られます。


夜勤中も適切な業務量で休憩をとったり、少ない残業で帰宅できれば妊婦でも夜勤が可能ですし、勤務時間分はしっかり働いて、休日は家族との時間に当てられるならば、子育てをしながら働ける看護師もいるでしょう。

ただしほとんどの病院ではこのような体制を整えることが適わず、やむを得ず離職を選択せざるを得なくなってしまうのです。長年勤めたベテラン看護師でも、年齢とともに夜勤の疲労が負担となって離職を選ぶこととなり、さらに看護師の離職率を高めています。

看護師自身の体調不良、医療ミスのリスク

充分な休息もなく激務を長期間続けていれば、よほどの体力・気力のある方でない限り、やがては心身が蝕まれてしまいます。

こうして自身がうつ病になってしまったり、注意力不足から医療事故へとつながってしまったり、最悪の場合過労死という事態も現実に発生しています。

医療事故で患者さんを死亡させてしまうことはとりかえしがつかず、病院経営にとっても相当なダメージともなります。夜勤の影響は、このような事態に及ぶ可能性があるのです。


看護師の夜勤見直しの具体策と問題点



看護師の離職率の高さに歯止めをかけるため、そしてうつ病や過労死、医療事故といった事態を予防するために、これらの大きな原因となっている看護師の夜勤を見直そう、という社会的な動きが始まっています。

まず当事者である病院サイドでは、8割以上の病院において「夜勤中の休憩時間の確保」に、7割以上の病院で「連続夜勤回数の制限」に取り組んでいるというアンケート結果があります。

<関連サイト>
看護師の夜勤回数、どのくらい?



行政としては関係各局が連携して、看護師の労働環境整備のためのコンサルタントによる支援を実施するとしています。さらには日本看護協会が「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」をまとめました。

看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン

・看護師の心身の健康の保持増進に、組織と個人の双方で取り組む
・そのために、夜勤、交代制勤務の負担を軽減していく対策を立てる
・職員、職場全体を快適なものにするワークライフバランス推進の一環とする

これらを基本的な考えとし、

  • 勤務間隔を11時間以上あける
  • 拘束時間は残業を含め13時間以内
  • 3交代の夜勤は月に8回以内が基本
  • 連続の夜勤は2回まで
  • 連続勤務は5日以内
  • 交代周期は正循環で

・・・といった具体案を提案しています。看護部長などの管理職に影響力がある日本看護協会が決定したこのような方針が、一定の意味を持つということは確かでしょう。

しかしながら法律とは異なり、強制力があるわけではありません。また、このような体制を整えようとすれば現実に立ちはだかるのが、「看護師不足」です。


日本精神科病院協会では、先のガイドラインに対し「このガイドラインを実施するとなれば、1病院当たり平均23名の看護師増員の必要があり、日精協全体で2万7800人の看護師が不足する」と声明を出しています。

他の診療分野においても状況は同じであり、日本看護協会でも「すぐに実現するのではなく、職場事情を見ながら出来ることから取り組んでほしい」としています。夜勤の見直しにより働きやすいシフト体制が実現されることで離職率が1%減少すれば、約9,000人の看護師が勤務を継続できます。


現状の、厳しい夜勤→離職率上昇→スタッフ不足→夜勤環境のさらなる悪化という悪循環から、夜勤の見直し→離職率減少→スタッフ不足解消→夜勤環境のさらなる改善というプラスの循環へと変えていけることが理想です。

夜勤勤務の負担が減ってくれば、今までは看護師の日勤常勤で働いていたけど、夜勤勤務を引き受けても良いと考える看護師が増えてくるかもしれません。


このような環境改善には、個人だけでなく組織としての取り組みが欠かせません。病院側が看護師の立場を理解し改善に取り組む姿勢が欠かせず、職場による改善の差が出てくる可能性があります。

現在の職場の夜勤環境ではやはり厳しい、と感じる場合には、より環境の良い職場へ転職することで看護師を続けていける可能性があります。夜勤の状況や病院としての取り組みはどうなのか、といった内部事情を確認するには、看護師専門の転職サイトに登録し、専任コンサルタントに聞いてみると良いでしょう。

<看護師の夜勤見直しが進んでいる?・まとめ>

  • 看護師の夜勤には不規則性が多い
  • 看護師数と休憩の少なさ、残業の多さが夜勤を辛いものに
  • 逆循環のシフトが体を休息しづらくしている
  • 夜勤の負担、家庭との両立の難しさが離職率を高める
  • 看護師が体調を崩し、医療ミス発生につながる事態
  • 夜勤見直しが注目され、看護協会でもガイドラインが発表された
  • 看護師不足がネックとなっている
  • より好環境の病院への転職も、ひとつの選択肢

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