国際緊急援助隊は海外の大規模災害などに際して派遣され、現地で救援や支援を行なうグループです。隊の医療チームには医師や薬剤師とともに看護師も参加しています。
ここでは看護の知識や経験を活かし、世界各地で活躍する国際緊急救助隊の看護師の仕事について詳しくまとめました。援助隊の看護師になる方法や求められる看護師についても紹介します。
目次
国際緊急援助隊とは?
世界各地の地震や洪水などの被災地に対し、我が国の経験やノウハウを活かして救援を行なおうという思いから誕生したのが「国際緊急援助隊(JDR)」です。1979年に医療チームを中心に、カンボジア難民の支援を行なったのが活動の始まりでした。
1987年には「国際緊急援助隊の派遣に関する法律(JDR法)」が施行され、災害の規模や被災国のニーズに応じた支援が行なわれるようになっています。
主なチーム分け
国際緊急援助隊は大きく分けて4つのチームがあります。
・救助チーム
警察庁、消防庁(IRT=国際消防救援隊)、海上保安庁の隊員によって編成され、主として捜索や救出にあたる援助隊です。隊員以外にも建物構造の専門家や災害救助犬(警備犬)などが参加するほか、隊員の健康管理のための医療班も同行します。
・医療チーム
国際協力機構(JICA)に登録している医師や看護師、薬剤師などによって編成され、被災者の診療や応急処置にあたる援助隊です。ほかに医療調整員として、救急救命士、臨床検査技師、臨床工学技士、放射線技師、理学療法士、作業療法士、栄養士、コメディカルなども参加します。
・専門家チーム
政府や民間の専門家で編成される援助隊です。主な専門家としては、地震・耐震・感染症・火山などの研究生や技術者が挙げられます。災害対策や復旧活動の支援や指導が主な活動です。
・自衛隊部隊
陸海空自衛隊の隊員で編成される援助隊です。医療や防疫の支援、物資の輸送、復旧活動などに従事するほか、各チームの後方支援(輸送や給水活動等)も行なっています。
過去の活動例
国際緊急援助隊が過去に行なった活動例としては、2015年にネパールで起こったM7.8の大地震被害の支援がよく知られています。地震が発生した翌日には救助チームが現地に派遣され、地元の軍や警察をサポートする形で救助活動を開始しました。
医療チームは地震発生の3日後には日本を出発し、ネパール政府および国際機関と現地の医療ニーズや活動地域等に関する協議を行なったうえで診療などの支援を開始しています。その活動内容は基本的な診療だけでなく、手術や透析といった高度な診療も含まれていました。
その他の国際緊急援助隊の活動例には、1999年のトルコ地震、2004年と2009年のスマトラ島沖地震災害、2005年のパキスタン地震、2008年の中国四川大地震災害、2009年のチリ地震、2011年のニュージーランド地震、2013年のフィリピン台風30号などがあります。
なお、すべての災害派遣に全チームが派遣されるわけではなく、現地のニーズに合わせたチーム編成が実施されています。
国際緊急援助隊の看護師とは?
国際緊急援助隊の4つのチームのうち、救助チームと医療チームには看護師が参加しています。救助チームに所属する看護師の仕事は、チーム内の隊員の病気やケガの処置、健康管理などが主です。
一方、医療チームに所属する看護師は、現地で被災者の診療や疾病の感染予防・蔓延防止などの活動に従事します。
医療チームで働く看護師の仕事内容
国際緊急援助隊に参加して医療チームで働く看護師の仕事は、被災地の現状によって多少の違いがあります。医療チームは現地入りすると、ただちに被災地の政府や国際機関などと協議を行なって医療ニーズを把握します。その後、現地の担当者と協力しながら、必要とされる医療支援を行なうことになるわけです。
次に国際緊急援助隊の医療チームで働く看護師の具体的な仕事内容について紹介していきましょう。
(1) 配置の決定と診療準備
被災地で診療を行なうためのメンバー配置を決定します。看護師は割り振られた配置に着き、スタッフとともに診療に必要な準備を整えます。現地の状況に合わせ、患者の受付や薬局業務、物品の補充・点検・整備・汚染物の処理などを行なう場合もあります。
(2) 患者の受付業務
基本的に患者の受付業務は医療チームの調整員が担当しますが、人員配置の関係によっては看護師が行なう場合もあります。主な受付業務としては患者から氏名・年齢・居住地・症状などを聞き取り、カルテに内容を記載するというものです。必要であればその場で体温測定などを行なうこともあります。
(3) 医師によるトリアージの介助
患者の受付業務と併行して、医師が行なうトリアージの介助を行ないます。トリアージとは患者の症状の程度によって治療の優先順位を決めることです。災害地では患者の程度に合わせて手首などにタグを付けますが、被災地の診療所や診療点とでは必ずしもそうするとは限りません。
ちなみにタグの種類は、赤色(最優先治療群)・黄色(非緊急治療群)・緑色(軽処置群)・黒色(死亡および不処置群)です。
(4) 医師の診療介助と処置
海外の被災地であっても、基本的な看護業務に変わりはありません。看護師の仕事は医師の診療介助と処置が中心になりますが、被災地の状況により外科的処置が主となるでしょう。
外傷の処置として皮膚の消毒、軟膏塗布、ガーゼ交換のほかに、点滴や点眼、点耳、内服介助などを行ないます。脱水症状や皮膚疾患、皮膚剥離、炎症、火傷といった症状の患者が多いという傾向が見られることもあります。
(5) 診療環境の整備と管理
被災地入りした当初に整えた診療環境ですが、実際に診療を進めていくうちに現状と合わなくなってくる場合も見られます。診療スペースのレイアウトを変えたり、患者のプライバシーや宗教的信条に配慮した環境を整えるなどの仕事に看護師も参加します。看護の立場から意見を出すだけでなく、作業に参加する必要も出てくるでしょう。
(6) カルテ管理・備品管理
患者のカルテ記入や整理、管理も看護師の仕事のひとつです。言語の問題もあるためカルテには診察番号を付け、患者には同じ番号の診察カードを作って渡すなどの工夫が必要になります。再診患者が受診したときのために、カルテは分かりやすく保管しておく必要があるでしょう。
併せて患者データの集計も行ない、パソコンに入力しておきます。カルテや集計データは医療活動を報告する際にも不可欠のものですので、しっかりした整理や管理が求められるものです。
(7) 感染予防・蔓延防止など
被災地の状況に応じ、医師の指示にしたがって感染予防や蔓延防止などに関する業務を行なう場合もあります。また、患者への保健指導や生活指導などを行なうのも看護師の仕事のひとつといえるでしょう。
以上が国際緊急援助隊の医療チームで働く看護師の主な仕事です。派遣先は海外であり、かつ大きな災害を被った場所であることから、通常の看護業務以外の仕事をする必要が出て来るケースも多々あります。看護師にもフレキシブルな対応が求められるところでしょう。
国際緊急援助隊で求められる看護師とは?
国際緊急援助隊の医療チームで求められる看護師は次のとおりです。
1.高い志や強い使命感
海外の被災地での支援活動は予想以上に厳しい面もあります。これまでに培った看護の知識や技術を活かし、「被災地のみなさんの力になりたい」「看護の経験を被災者のために役立てたい」という志の高さや強い使命感のある人が求められてきます。
2.健康で体力がある
被災地のなかには衛生状態が悪いところや、日本とはまったく違う過酷な気候の場所もあります。そうした環境でも多忙な業務をこなさなければならないことから、国際緊急援助隊の看護師は健康かつ体力がある人が求められます。
3.メンタルの強さ
援助隊チームの安全は守られているものの、日本国内と比べると治安の悪い地域での活動を行なわなければならない場合もあります。また医療設備が完璧ではない現場で、病気やケガ、心的ストレス等に苦しむ人の看護を行なうという意味合いからも、看護師にはメンタルの強さが必要となってくるでしょう。
4.協調性と適応力
初めて訪れる被災地で1つのチームとして活動を行なう状況では、すべてのメンバーに協調性と適応力が求められます。支援活動中はプライベートな時間もメンバーと生活することになりますので、チームワークを発揮できる能力が欠かせません。
5.創意工夫と積極性
被災地では医療設備や備品などが十分でなかったり、食事や宿泊施設が日本国内とは異なっているケースが少なくありません。不足している点に不満を感じるのではなく、創意工夫で解消しようという積極性が必要になります。
6.コミュニケーション力
現地の医療スタッフや担当スタッフとの共同作業や、言葉の通じない患者との意志の疎通など、さまざまな面でコミュニケーション力が必要になります。語学力のみならず、看護師本人の人柄や性格も重要です。
7.強いバイタリティ
被災地に派遣された隊員のなかには、現地の状況を見て精神的なショックを受けたり、活動が思うに任せないためにストレスを感じてしまう人もいます。医療チームの看護師にも目的を達成するための強いバイタリティ(生活力・生命力)が求められます。
そのほか、国際協力機構では医療チームに必要な条件として、(1)心身の健康、(2)20歳以上65歳未満、(3)5年以上の実務経験、(4)英検2級程度・TOEIC540点相当の英語力があることが望ましいとしています。
国際緊急援助隊の医療チームの看護師には、心(使命感やメンタルの強さ)、技(看護能力や語学力)、体(健康な体と強い体力)が求められるといえるでしょう。
- 世界各地の被災地で支援活動を行なう
- 看護師は医療チームの一員として派遣される
- ネパール地震でも日本の援助隊が支援を行なった
- 主な仕事内容は医師の診療介助と処置
- 診療環境の整備や薬品管理等を行なうことも…
- 強いメンタルや使命感、協調性が必要になる
- 健康や体力、コミュニケーション力も重要
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