社会の動向によって働く環境も大きく影響を受け、看護師を取り巻く環境も現在、そして将来的に変化していくと予想されます。ここでは、看護師の現在の状況について、また未来の予想について、いくつかの観点に分けて考察してみます。
目次
看護師をとりまく環境は今どうなっている?
看護師不足の実態
毎年5万人もの正看護師が誕生しているにもかかわらず、看護師は慢性的に不足しておりその不足は解消されるどころかますます深刻化しています。看護師不足を理由に閉鎖してしまった病棟も存在します。
看護師が不足する理由として、7対1看護による混乱の影響、そして結婚や出産、介護といったライフステージの変化や、過酷な勤務状態からの離職者の多さが挙げられます。介護福祉施設での看護師求人が増加しているものの応募者数が足りないことも、看護師不足を悪化させています。
これに対し、日本看護協会などの主導で看護師の待遇改善が進められており、実際に新卒看護師の離職率の改善が確認されています。
また患者数に対する看護師数の割合は地域ごとの差が大きく、関東では人口10万人に対し看護師数が1,000人を切り、地方よりも不足が深刻です。この地域差の解消も課題のひとつになっています。
診療報酬改定の影響
行政政策の一環として、診療報酬ルールの変更が定期的に行われています。平成26年の改定は、7対1病床型の病院判定基準を厳しくする、という内容でした。
患者7名に対し看護師1名を配置することで、病院はより高い診療報酬を得られるようになっています。改定で、7対1病床の判断において在院日数計算やICUへの入院判定、重症判定の基準が厳格になったことで、基準を満たすことができない病院が出てきました。
結果的に大病院の報酬額が減少する傾向になり、そのしわ寄せは看護師や医師の給与減少に影響します。さらにリストラや求人の見送りが行われることで、病院看護師求人数がこれまでよりも減少し、逆に需要の多い介護関連分野への転職者が増加するものと予想されます。
求人動向
一般会社員の有効求人倍率が1倍にも満たない中、看護師では倍率は3倍、つまり3名の募集に対し応募者1名という状態であり、いまだ売り手市場が続きます。
ただしこの倍率には地域差が大きく、関東近郊や一部の地方都市で倍率が高く、九州・東北地方で低めになる傾向が見られます。また、地方では希望に合う求人が少なかったり、新卒看護師の給与額でも都心と地方の差が見られます。
今後の求人動向として、診療報酬改定の影響で病院からの看護師求人が減少し、訪問看護分野に移行していくと考えられます。看護師の勤務先の変化は平均給与の低下を招きますが、介護分野での待遇改善は社会的課題となっており、今後は訪問看護師の給与が見直される可能性はあります。
ただし、生涯有効な国家資格であるために、高齢の看護師でも求人を探すことは可能で、今後も売り手市場は変わらないと考えられます。好条件での転職にはタイミングがあるので、転職サイトのコンサルティングなどを活用した計画的なステップアップが大切です。
- 看護師不足は深刻化していて、地域差も大きい
- 診療報酬改定による看護師の収入低下、病院求人の減少が予測される
- 地域差や社会動向の変化はあるが売り手市場は変わらない
看護師を取り巻く環境についてもっと詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
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- 病院看護師が将来的には人余りになる?
- 平成26年度診療報酬改定の影響度
- 老人看護の問題点について
- 看護師不足の実態と原因
- 中国人看護師が急増している?
- 潜在看護師からの職場復帰!復職支援は?
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看護師の未来はどうなる?
看護師転職の未来
平成26年の改定では急性期病院の診療報酬が見直され、7対1看護配置を実施する病院の判定条件が厳しくなりました。
判定条件の厳格化によって優遇対象外となった病院では、雇用の見直しや給与条件の低下を検討せざるを得ません。この結果、病院看護師への転職条件が悪化する可能性があります。
この診療報酬改定で行政が目指すのは、病院看護師で減少した看護師を、訪問看護分野で雇用できる状態です。訪問看護師の平均給与は病院看護師よりも低めであり、今後は給与の改善が求められていくとしても、全体的な看護師給与の低下は避けられないのではないかと考えられます。
こういった社会情勢はあるものの、国家資格の看護師免許の有効性は依然として高く、転職先に困るということはないでしょう。
訪問看護師不足
2025年には団塊世代が75歳以上となり、このまま病院利用者や入院患者が増加すれば、医療費の急増、病院施設の不足は免れません。この緩和のため、重症度が低い患者を在宅医療や病院以外の施設で受け入れる体制づくりが叫ばれています。
これには訪問看護師の拡充が不可欠であり、必要となる訪問看護師数は、現在の5倍以上である17万人と推測されます。
訪問看護分野はあまり人気がなく、求人10名に対し応募者1名という状況です。その理由には、知名度の低さのほか、介護の比重が高い業務内容、夜勤手当がつかない給与待遇の低さなどがありますが、夜勤がなく家庭と仕事の両立がしやすい点はメリットです。今後は、行政による支援や環境整備が期待されます。
病院看護師
何度か記述したように、診療報酬の改定によって病院看護師の数は減っていくという予測があります。ある試算では、2010年時点と比較して、2015年の病院看護師数は14万人減少すると言われています。
この受け皿となることを行政から期待されているのが、需要の急増が予測される介護施設や訪問看護ステーションへの勤務です。これらの施設と病院との大きな違いは、夜勤がないこと、そのために給与額が低めであることです。
病院看護師においても、先の改定によって急性期病院を中心に経営悪化が予想され、その分看護師の給料も抑えられると考えられます。
これらの変化はあくまで予測であり、実際の現場において急激に実感されるものではありません。ただし就労環境の悪化を感じている病院看護師は少なくないようです。
中国人看護師
少子高齢化による患者数増加と働き手の減少、看護師の仕事は心身ともにハードで、免許を取得しても看護師として働かない方がいることなどもあり、日本の看護師不足は慢性化しています。
看護師数を増やそうと、アジア諸国からEPA看護師の受け入れが試みられましたが、漢字で、難しい医療用語を学ぶことのハードルが高く、日本の看護師試験合格率は低いものでした。
一方で漢字を常用する中国人はこの点で圧倒的に有利であり、NPO法人による語学留学型就職支援事業を通じ、中国人看護師の受け入れが進んでいます。国家試験合格率は日本人と大差なく、今後は病院側もサポートを継続し、受け入れ数が増加していく予定です。
- 病院看護師が減少し、平均収入が減少する可能性がある
- 訪問看護師数の増加が望まれるもののまだ応募者数は少なめ
- 病院看護師では就労環境悪化を感じるという声も
- 中国人看護師の受け入れが進み就労者も増えている