求人活動で言われる「売り手市場」とは、ひとつの職種において、求職活動を行っている人の数よりも求人数が上回っている状態を指し、つまりは就職、転職がしやすい状況です。
看護師業界はこれまで、売り手市場であると言われてきました。現在でもそうなのか、看護師の近年の転職動向や将来的な見通しを、都心だけでなく地方の状況も含めて考えてみます。
目次
看護師の転職動向は?
看護師が転職を考えるきっかけ
もともと看護師は転職者が多いと言われますが、なかでも転職を検討し始める方が増えるのは、看護学校・大学を卒業後、3年~5年勤務した頃です。
中途採用求人の募集要項として「臨床経験3年以上」という記載が多く、それ以下の勤務年数ではなかなか即戦力とみなされません。若ければ成長性は買われるでしょうが、年収増など好条件での転職は難しいため、勤続3年以上の転職が多くなります。
仕事に慣れてくるこの時期には周囲に目を向ける余裕が生まれ、他の病院や診療科への興味、スキルアップへの意欲が出てくる、というタイミングでもあります。
看護学校・大学では奨学金制度があり、奨学金返済免除の条件として「系列病院への3年程度の勤務」が挙げられることがあります。この免除条件のクリアをきっかけに転職を考えるというケースもあります。
看護師求人倍率の傾向
厚生労働省発表によれば、看護師の有効求人倍率は2.5~3.0倍程度です。都道府県ナースセンターの統計では、2012年度の看護師求人倍率は3.0倍を超え、過去10年間で見ると2倍近くに増加、特に常勤での倍率増加傾向が高くなっています。
社会全体を見てみれば、一般会社員の2015年の正社員有効求人倍率は、全国平均で0.75倍程度、低めの地方では0.5倍、高い地域でも1.0倍程度となっており、求職してもなかなか転職先が見つからない状態です。
このような環境下にあって、看護師3人の求人募集に対して応募者1名という割合は、かなりの売り手市場であると言えます。
地方って本当に売り手市場?
地方ではそこまでではないところも
看護師の売り手市場の状況は、全国どこでも同条件というわけではありません。看護師では一般会社員の状況以上に、求人倍率に大きな地域差が見られます。
例えば2012年、看護師求人倍率の全国平均は約3.1倍でした。ただしエリア別で比較すると、関東1都3県の都心エリアでの倍率が3.6倍であったのに対し、九州沖縄エリアでは2.2倍と、1.4倍の差が見られます。
同じ地方でも、福井県のように常に求人倍率が高い県もあり、一般会社員でも1.0倍以上、看護師求人では実に5.9倍という高い数値になっています。傾向として、九州地方や東北地方で求人倍率が低めになりがちです。
倍率だけではない、都心と地方との転職格差
都心と地方との転職状況の差は求人倍率だけではなく、「条件のいい求人があるかどうか」にも表れています。
例えば「高収入を目指して美容皮膚科・外科で働いてみたい」「小児救急に興味がある」といった希望があっても、地方では選べるほどの求人数がなく、都心部に近づかなければ条件の合う求人が見つからないことがあります。
一般的に求人機会が少ない保育園の看護師への転職では、地方での正規の募集は見つからず、知り合いのつてで探したり、求人がないかひとつずつ電話で確認して探す方もいるようです。運よく求人が見つかっても給与条件は保育園の先生と同じだった、といったケースも聞かれます。
派遣看護師として、自分の都合に合わせていろんな仕事を体験したいという場合、地方では派遣の機会そのものが少なく、あったとしても同じ求人先、ということが珍しくありません。
北海道の田舎から東京の大学病院へ転職してきた看護師は、仕事の内容や忙しさは変わらないのに給料が5万円以上も増え、その条件の良さに驚いたという話があります。
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・看護師の求人先:大学病院のメリット・デメリット
新卒看護師の平均は東京で370万円、東北地方では294万円と、76万円の差があると言われます。転職の条件ではこのような求人数、求人先、年収条件の地域差があることを理解しておくことが必要です。
将来看護師の求人動向が変わってくる?
看護師の求人先割合が変化する可能性
看護師の勤務先として多いのは病院ですが、将来的な求人動向の変化により、勤務先割合が変わってくる可能性があります。
その原因となるのは「診療報酬制度の改定」です。診療報酬、つまり治療費の計算方法は2年に一度行政による見直しが行われ、その時々の状況に合わせて改定されています。
平成26年の改定では、急性期病院の診療報酬見直しが焦点となりました。具体的には、「7対1(患者さん7名に対し看護師1名)」看護体制の病院では診療報酬設定を高めにできる決まりでしたが、この看護体制の判定基準がより厳しくなったのです。
これまでは7対1体制認定のために積極的に看護師募集をしていた病院が、判定基準から漏れてしまうことで募集の必要性がなくなり、結果的に病院からの看護師求人数が減少していくことが予想されています。
この減少分の求人は、訪問看護分野に移行するものと考えられています。超高齢化が進む日本では、在宅介護のサービス充実が急務であり、その担い手である看護師不足が課題になっています。
国では、現在の訪問看護師数約3万人を、5倍の15万人にまで増やす計画をしており、先述のような診療報酬改定も計画の一端であると考えられます。
求人動向の変化が給与に与える影響
このように、病院看護師の求人が減少する一方で訪問看護師求人が増加することによって、看護師全体の平均給与の低下が引き起こされます。
看護師全体の平均給与は470万円と言われますが、これを押し上げているのが病院看護師の給与状況です。これに対し訪問看護師の平均年収は350万~400万円となっており、訪問看護従事者数が増えれば、結果的に看護師全体の平均給与を押し下げることになります。訪問看護ではパートなどの非正規雇用が多いこともこのような給与状況に影響しているでしょう。
さらに、先述のような診療報酬改定で病院の収入が減少していけば、病院看護師の給料低下を招く可能性も考えられます。これまで「看護師は年収の高い職種」と言われていましたが、将来的にはこの傾向にも変化が現れてくるかもしれません。
とはいえ現在では、訪問看護師の数は圧倒的に不足していて、求人倍率は10倍とも言われます。このような状況は、訪問看護など福祉業界の平均賃金の低さに一因があると考えられているため、訪問看護師の給与も見直される可能性はあります。
それでも変わらない?看護師の売り手市場
このような求人動向の変化を見ると、今後看護師の転職は難しくなってくるのかも・・・と不安に感じられるかもしれませんが、それでも売り手市場の状況は変わらないと考えられます。
一般の会社員では、35歳以上の転職はかなり難しい現状です。常時求人をかけているのは慢性的人手不足の飲食業界やブラック企業、パート、派遣などの非正規雇用であり、条件のいい正社員雇用の求人数、採用率はかなり低くなります。
しかし生涯免許である看護師では、このような心配がありません。40代を過ぎさらに50代でも求人先を見つけることができ、求人内容の動向変化はあっても、売り手市場の傾向に変化はありません。
転職は困難ではないとはいえ、せっかくの転職の機会は、ステップアップや仕事の充実に役立てたいものです。そのためには、数ある求人のなかで自分の理想に適った情報を、転職サイトなどを利用して効率的に見つけるのが成功のカギとなります。
- 求人倍率は3倍と、一般会社員に比べ高い傾向
- 都心と地方とでは求人倍率、求職条件の差が存在する
- 病院看護師求人が減少し、訪問看護師求人が増加すると予想
- 求人動向が看護師の平均給与を引き下げる可能性がある
- 看護師の売り手市場傾向は変わらないと考えられる
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