医師と看護師の仕事は厳密に分かれており、看護師にはできない医療行為があります。現在その溝を埋めるべく、特定の医療行為を許可される「特定看護師」という制度が誕生しようとしています。
これまで様々に議論が重ねられ、2015年3月に制度の詳細が決定し施行通知が発出、10月には研修がスタートした「特定看護師」制度とはどのようなものなのか、その内容や医療現場での認識、特定看護師になるための方法について触れていきます。
目次
特定看護師とは
特定看護師って何?
超高齢化社会の進行にともない、今後ますます医療ニーズが拡大、多様化していくことが予想され、その一方で医師不足が叫ばれています。医師不足の現状を「看護職の裁量拡大」によって多少なりともカバーし、より効率的な医療を提供するべく検討されてきたのが、特定看護師制度です。
研修を経て特定の知識や技術を修得することで、これまで看護師が実施を禁じられてきた一定の医行為を実践できる看護師を指します。厚生労働省の位置づけでは「専門的な臨床実践能力を有する看護師が、医師の指示を受けて、医行為を幅広く実施できるための枠組み」としています。
NP=ナースプラクティショナーは、医師の給与が非常に高額なアメリカにおいて医療コスト削減を目的として導入された、上級看護師のことです。その目的や内容は異なりますが、医師の補助だけでなく自らも診療行為を遂行できるNPが、日本の特定看護師制度導入の参考となっています。
日本における「専門看護師」「認定看護師」制度は、いずれも特定の看護分野に特化し、知識や経験をもとに、円滑に治療を進めるスペシャリスト、もしくはマネージャーとしての役割を持つ看護師育成を目的にしています。
これに対し特定看護師は、両資格の役割を統合し、治療面とマネジメント面、双方のスペシャリストであることが求められます。
特定看護師制定の目的
特定看護師制度の主な目的は、医師の負担の軽減にあります。日本は他先進国と比較して、患者数に対する医師数が極端に不足しています。激務による医師の辞職、それによりさらに医師の負担が増していくという状況を、看護師のカバー範囲を広げることで補っていこうとするものです。
また団塊世代の高齢化により、在宅医療サービスの受け入れ態勢を整えること、サービスの拡充が急務とされます。
例えば、高齢者が自宅で脱水症状を起こしたとき、医師の判断を仰がずに輸液による補正を行えるのが特定看護師であり、このように超高齢化社会における課題を改善する目的があるのです。
特定行為とは
特定看護師だけが行える医行為の具体的な内容については、看護業務検討ワーキンググループによって検討が重ねられ、下記の38行為が挙げられています。
・経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
・侵襲的陽圧換気の設定の変更
・非侵襲的陽圧換気の設定の変更
・人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
・人工呼吸器からの離脱
・気管カニューレの交換
・一時的ペースメーカの操作及び管理
・一時的ペースメーカリードの抜去
・経皮的心肺補助装置の操作及び管理
・大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整
・心嚢ドレーンの抜去
・低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
・胸腔ドレーンの抜去
・腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された 穿刺針の抜針を含む)
・胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換
・膀胱ろうカテーテルの交換
・中心静脈カテーテルの抜去
・末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
・褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
・創傷に対する陰圧閉鎖療法
・創部ドレーンの抜去
・直接動脈 穿刺法による採血
・橈骨動脈ラインの確保
・急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理
・持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
・脱水症状に対する輸液による補正
・感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
・インスリンの投与量の調整
・硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
・持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
・持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整
・持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
・持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整
・持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
・抗けいれん剤の臨時の投与
・抗精神病薬の臨時の投与
・抗不安薬の臨時の投与
・抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整
特定行為の手順書
これらの特定行為は、医師または歯科医師が指示書として作成する「手順書」に基づいて行われます。手順書は普遍的な文書が存在するわけではなく、各医療機関において下記の6項目を定めて作成します。
- 手順書に係る特定行為の対象となる患者
- 対象患者の病状の範囲
- 診療の補助の内容
- 特定行為を行う時に確認すべき事項
- 安全確保のために医師への連絡が必要となった場合の体制
- 特定行為を行った後の医師への報告方法
特定看護師の配置を計画する医療機関は、予め特定行為の範囲を予測し、必要な手順書を医師と看護師で連携して作成しておく必要があります。
特定看護師、医療従事者はこう考えている
特定看護師への関心
厚生労働省において導入の検討が慎重に進められてきた特定看護師制度に対しては、医師会や看護協会をはじめ、医療現場からも様々な意見が出されてきました。
特定行為の研修は、病院団体が関連病院の看護師を対象に実施したり、大学院でのカリキュラムに組み込むといった方法での実施が想定されますが、研修機関の指定は厚生労働省が行います。
機関指定申請のための説明会が実施された際に、多くの教育機関、医療関連団体、病院関係者の参加があったことから、各関連機関・医療従事者の「特定看護師制度」に対する関心の高さが伺われます。
その後数十の大学・大学院が指定期間となり、特定看護師の研修が始まっています。研修状況については、各指定機関から厚生労働省へと情報提供され、今後の特定看護師育成事業に反映させていくこととしています。
医療従事者からは賛否両論
あるアンケート調査の報告では、「特定看護師と准看護師のどちらが増加してほしいか」という質問に対し、約60%の医師が「特定看護師」と回答し、勤務医に限定すれば実に70%以上が、特定看護師が増加してほしいと答えています。
一方さらなるキャリアアップを望む看護師にとって、特定看護師制度は、認定看護師・専門看護師以外の選択肢として、昇給ややりがいを求めることができる、新しい目標となります。
このように早速研修導入を開始する機関の存在や、特定看護師導入を歓迎する医師、看護師らの声が聞かれる反面、懸念の声が上がっていることもまた事実です。その懸念は主に「特定看護師となることでの業務の激化」「医療ミス発生リスク」の2点に関連しています。
スタッフ不足の深刻化は医師だけではなく、看護師も同様です。2014年の看護師求人数約5,000人に対し、求職者数は1,600人程度にとどまり、単純に見ても3,400人もの人員不足が発生しています。
看護師不足の状況下で特定看護師になるということは、特定行為やマネジメントの分だけ仕事が純増し、激務状況がさらに悪化してしまう可能性があります。また、より医師に近い、生死にかかわる医行為を特定看護師が行うことで医療ミスが発生すれば、その責任を負う必要があります。
これまでも、病院、指導医とともに看護師に法的責任があるとする判例はいくつもありますが、特定看護師の誕生によって、看護師が負う責任はさらに重くなるものと予測されます。
患者さんの目線で見てみると、看護学のエキスパートであって決して医学のプロではない看護師から医行為を受けることで、患者さんの命が危険にさらされるリスクが高まるのではないか、という議論もあります。
特定看護師になりたいなら
当該分野での研鑽、勤務先の支援が欠かせない
特定看護師の研修を受けるための資格は特に定められてはいませんが、勤務年数に関しては、概ね3~5年以上が望ましいとされています。
具体的な内容は、研修を希望する施設に問合せてみましょう。例えば日本看護協会看護研修学校にて研修を受けるための条件としては、下記が挙げられています。
- 日本看護協会が認定する当該分野の認定看護師資格を有する
- 認定看護師資格取得後に5年以上勤務
- 当該分野の認定看護師として実践を積んでいる
- 受講について所属施設の看護部長か施設長の同意がある
- 研修中の身分が保証されている(出張、研修扱いにできる)
こういった条件から、特定看護師を目指すには、希望する特定行為の分野においてかなりの研鑽を積んでいることが前提であり、勤務先の支援体制が整っていて、その協力を得る必要があることが分かります。
看護師資格の取得人数は増加しており、2025年には看護師は約200万人になると予想されています。2025年までに、看護師全体の5%である10万人の特性看護師を養成するというのが、厚生労働省の計画です。医療ニーズの拡充に向け、看護師のさらなるスキルアップが望まれていると言えるでしょう。
特定看護師になるにはまず、特定看護師設置を計画している、もしくは受講支援の体制が整っている勤務先に在籍する必要があります。そのうえでの当該分野の研鑽、そして勤務先の医師たちとの強い連携、組織的な支援が欠かせません。
そのような体制が望める求人先は、看護師施文の転職支援サイトで探してみると良いでしょう。
- 特定看護師は、研修を受け特定の医行為を実践できる
- 医師の負担の軽減、高齢化社会における医療の拡充、整備が主目的
- 38の特定行為は、各医療機関作成の手順書に基づいて行う
- 医療従事者からは賛否の声がある
- 懸念として、看護業務の激化、医療ミスリスクが挙げられる
- 特定看護師になるには、該当分野での研鑽、病院の支援体制が欠かせない
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