超高齢社会へ突入した日本の医療現場における課題に、「老人看護」があります。成人と老人の看護では別の視点が必要になるにもかかわらず、未だその手法が十分に浸透しておらず、看護の現場で迷ったり不安になる看護師が少なくありません。
現時点で見えている老人看護の問題点について、この分野のプロである老人看護専門看護師の活躍に期待される活動や特徴についてまとめていきます。
老人看護の問題点とは
少子高齢化と老人看護
老人看護を考えるうえで「少子高齢化」との関係が欠かせません。一般的な分類として、65歳以上の高齢者の割合が全人口の7%以上で「高齢化社会」、14%以上で「高齢社会」、21%以上が「超高齢社会」と呼ばれます。日本では2007年に超高齢社会となり、2020年には抗レ社の割合は29.1%に達すると予測されています。
看護の現場にもたらす影響として、高齢者の受療率や入院率の高さ、入院の長期化が挙げられます。ある調査によれば、65歳以上の受療率は全年齢平均の約3倍、入院率は2倍であり、20日以内の退院の割合は、若年層の9割に対し高齢者では6割にとどまります。
加えて、少子化・核家族化のため各家庭での介護が難しいこと、年金システムの崩壊といった問題もあります。団塊の世代が後期高齢者となれば高齢者人口は最大になります。老人看護のあり方について、真剣に取り組まなければならない時期が来ているのです。
問題点①高齢者ニーズに合う医療・福祉が不十分
小児看護学、母性看護学、成人看護学といった学問領域のひとつとして老年看護学がありますが、これは学問上のものであり、医療現場では老人看護はいまだ成人看護の延長として捉えられているのが現状です。
確かに高齢は成人の範疇のひとつですが、成人に対するのと同様の治療・看護では、十分に高齢者の疾患・障害の特徴を捉え、患者さんの意志に沿った看護ができるとは言えません。
老人看護では、疾患や症状、障害だけに目を向けるのではなく、看護対象者の個別性やQOLにしっかり目を向けていく必要があります。さらに病院や介護施設という場所に限定して考えるのではなく、家族や地域と連携していく姿勢が大切です。
問題点②高齢者向けの医療・看護体制の不備
2020年、日本人の約3割が65歳以上の高齢者となったとき、病院や福祉施設など十分な受け入れ場所や体制が整えられるかというと、難しいだろうと判断せざるを得ません。先述のような入院の長期化もネックとなることが予想されます。
政府では超高齢社会対策の一環として、高齢者に多い循環器系・筋骨格系・消化器系・内分泌系・新生物疾患の予防運動を進めてきましたが、ほとんどの分野で患者数は増加傾向であり、これらの疾患への予防・対応の強化が必須です。
問題点③老人看護に関する情報の伝達、教育
スキルを高めるだけでなく、老人看護に取り組むチームの発信者として、高齢者やその家族、担当医、介護ヘルパーや地域の人々と広く協力、連携し、高齢者のサポートをします。
病院や福祉施設、在宅医療など様々な分野で老人看護に直面する看護師からは、「介護と看護のバランスが難しい」「もっと介護職をサポートしたい」「病院看護にとらわれ過ぎる人がいる」「医師の指示がなく自分の判断に不安と責任を感じる」「病状が非定型で、認知症のため訴えの判断が難しく、成人看護のようにいかない」「老人看護の情報が少なすぎる」といった切実な声が聞かれます。
老人看護体制の充実、その体制が高齢者ニーズにマッチしたものである必要性のほかに、老人看護を担う看護師への十分な情報提供、教育環境もまた必要とされています。
老人看護専門看護師が活躍するフィールド
老人看護専門看護師の誕生
日本看護協会による資格認定制度のひとつとして、老人看護のスペシャリストである「老人看護専門看護師」が2002年に誕生しています。2016年現在の老人看護専門看護師登録者数は93名であり、病院の看護師として、また看護系大学の教員として活躍中です。
老人看護専門看護師には、高齢者に特徴的な疾患の看護知識やスキルを高めるのみならず、高齢者にマッチした医療・看護の提供のほか、老人看護への意識改革、終末期医療の確立を含めて、周囲に働きかけていく役割があります。
老人看護の仕事とは
老人看護の問題点を前向きに捉えてみると、慌ただしい病院看護では味わえない「ケアの面白さ」があります。
老人看護では看護対象者の人生、生涯に深く向き合わざるを得ません。看護の仕事のなかで高齢者の人生に触れ、敬意を持ちながら意志に寄り添っていけること、役立てることは、看護師に大きなやりがい・喜びをもたらします。
悩みともなりうる看護の非定型性や責任の反面、老人看護のエキスパートとして治療・ケアを選択する能力に対する周囲からの期待や、他職種からの声に十分に耳を傾けた柔軟な対応ができる自由性があります。
福祉施設での看護経験の積み重ねは、利用者からのアセスメントがあってこそ可能であり、さらに他職種との連携がなければこのアセスメントは機能しません。老人看護は看護師だけでなく、他職種、地域、そして多くの高齢者と一体になって行っていくものです。
老人看護専門看護師は、老人看護の高い知識とスキルを持つプロとして、チームを導く機能をもちます。そこでは看護師として、1人の人間として学ぶことも多いでしょう。
- 超高齢社会が看護にもたらす負担の増大が予測される
- 高齢者の個別性という視点が欠けニーズを満たしていない
- 増加する高齢者の受入れ施設、体制整備が十分とはいえない
- 老人看護に関する情報や教育が浸透していない
- 老人看護専門看護師は周囲を巻き込んでニーズに合う看護を提供する
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